Q 演奏会を行う際の選曲や準備について教えてください。
 演奏生活ではいろいろな曲と出会いますし、楽譜が手に入ったり、CDで聴いて印象に残ったりする曲もあります。演奏会を企画することになると、そんなふうにしていつかやりたいなと思っていたたくさんの曲のなかから「ああ、あれをやろうかな」とまず1つを決めて、それと組み合わせて構成していきます。
楽譜に向かって弾きだして、ここをこう弾こうと考えたり、意味を分かろうとしたりすることはありません。手でこうやって触っているうちに「ああ、こうなんだ」と、ふと感じる時がある。それがキーだと思うんです。「あっ」と思う瞬間があるんです。
 これまで、いろいろな人に左手の曲を書いてもらいましたが、出来てから数年経った曲でも、今も弾くたびに新しい発見がある。しばらく時間をあけて弾いてみると「ああ、これでいいんだ」「こうもできるんだ」ということがあります。考えて追求するという感じではなくて、でも、何かいつも頭の中にあるみたいな、自分はその曲に関してとくに何もしていないけれども、放っておくとそのうちに変わっているわけです。この音楽は、このフレーズ、このメロディがこうやってやれば生きているんだなということがある時に分かると、弾くことも楽になるんです。
そしてもひとつ、やはりステージで弾くことが大切です。自分一人で部屋にこもっていくら勉強しても、新しいことは出てきません。たとえば、吉松隆さんの「タピオラ幻景」という曲はすごく人気があって、3年で150回くらい演奏しましたが、いまだに弾くのが面白くてしょうがない。また新しいことが出てくるから。じゃあ前のは駄目なのかというと、そうではない。新しく出てきて、これができますとなって、これからもまだまだそういうのが出てくる。そのとき、そのときの演奏が生まれるのが、すごく面白い。吉松さんも、聴くたびに違うと言って、びっくりしています。

♪楽譜を持ってきました
これは、実際に演奏会で使っている楽譜で、間宮芳生さんの直筆です。印刷されたものもあるのですが、僕にはこちらのほうがずっとやりやすい。音楽が生きて動いているというか、ちゃんとリズムに乗っているんだね。作曲者の体感が出てくる。作曲者の直筆のものがあれば使うようにしています。
それからこれは末吉保雄さんの曲ですが、左手のための曲なのに、たとえばここは4弾、ずっとここも4段、この次は3段となっている。どうしてかと思われるかもしれませんが、楽譜に向かっていると、音楽が生きて動いているさまがよくわかるんです。歌が分離して、そして一緒になって響きあっている。最初に彼からこれをもらった時、その感じを自分で大事にしたいと思って、1ヵ月くらい弾かずにピアノの上に置きっぱなしにしていて、ときどき楽譜だけこうやって見ていました。
 内容より
≫ 旅での出会い
≫ ステージに立つまで
≫ 音楽の道は果てしなく…



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